会計で会社経営を見える化し、企業の未来を描く税理士事務所・公認会計士事務所
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これから起業しよう、創業しようと考えている方にとって避けては通れない「定款(ていかん)」。会社にとってどのような存在なのか真剣に考えたことはありますか?
平成18年の会社法改正(通称:新会社法)では資本金が1円でも1000万円でも自由に「株式会社」を設立できるようになり、「有限会社」という枠組みがなくなりました。当時「1円会社」という言葉を耳にされた方もいらっしゃることでしょう。資本金だけでなく、登記のためだけではない、新しい会社に必要な新しい定款、生きた定款、会社を守る定款とはどのようなものなのか、しながわ法務司法書士事務所の所長司法書士・新谷健太郎とさくらみらい国際会計事務所代表で公認会計士・舟生俊博がお話しします。
司法書士はさまざまな会社の設立登記に際し、主に法律上の手続きをオーナーに代わり進め、設立登記を行うことで会社を実質的に誕生させるお仕事をされていますが、「定款」とは会社にとってどのような存在なのでしょうか?
定款とは組織や運営方法など、会社のルールを定めたものです。言わば会社の憲法です。例えば会社の機関、具体的には取締役会や株主総会の運営や取締役・監査役など役員について、それから会社の商号や会社設立の目的、そして株式などについて規定しています。
定款は、本来とても大切なルールが記載されたものですが、大切なあまりに形式的に整えることばかりに目が行って、金庫で眠っている実態と乖離している事例が多いのです。とくに、創業時の繁忙期に法人登記に必要だからという理由で、形式的に法律に則ったルールに整えてしまう場合もありました。そこには法律上の問題もありましたが、平成18年に会社法が改正されて中小企業の実態に即したルール作りができるようになりました。
従来は、金融機関や投資家、または大口取引先などに対して、会社謄本と決算書のみを提出すればよい場面が多くありました。しかし、新会社法後の定款には、謄本には記載されていない、会社の重要事項が記載されるケースが増えているため、会社謄本、決算書に定款も加えた3点セットで会社の概要を説明することが求められます。
定款は会社の「憲法」。
新会社法により、会社の実態に即したルールを記載することができるようになった。今後は、金融機関や重要な契約時には、提出を求められる重要書類だということを認識。
一般的には目にする機会の少ない「定款」ですが、これを記載しなければ、「定款」とはいえないというポイントを中心に基本的な内容を教えてください。
まず、どんな場合でも必ず記載するのは、以下のような項目です。
資本金が1円でも1000万円でも自由だということは、資本金をいくらと決めていいのかわかりません。たとえば、今手元にある現金資金を資本金にすればよいのでしょうか?
もちろん、1円でも会社を登記することは可能です。しかし「実態に即した定款」という観点で考えるとおのずと答えは異なります。たとえは、お花屋さんを開店するにあたって、お店をかりるための保証金や内装リフォーム資金、アルバイトを雇ったり、お花を仕入れたりする資金がまず必要です。これら、事業を始めるにあたっての初期投資資金や初動の運転資金を合計して、まず必要となるおおよその資金額から、いくら分を資本金とするのかを決められるのです。必要資金が手持ちのお金よりも多くても、すぐに売り上げが上がる場合や、長期借り入れのあてがある場合は、資本金が少なくてすむこともあります。
また、金融機関から、お金を借りる場合には、1円で作った会社というよりも、きちんと準備された資本金額がある会社のほうが、融資の審査が通りやすい場合もありますので、安易に1円で作ってしまえばよいというわけではないのです。また、地方行政機関や国民生活金融公庫などから、創業資金の低金利の融資を受けたいかたは、自己資本金が融資上限になる場合もあります。登記してから気づいては遅いので注意が必要です。
会社設立時の資本金は1円でも可能!
しかし、会社の今後の運営や資金繰り、外部からの資金調達を検討してから決めよう
会社の機関として定める基本的な事項にも含まれている
「取締役人数」や「取締役会の設置」は、どのようにきめたらいいのでしょう?
起業創業時には非公開会社を設立すると思いますので、そこに絞って話をします。
株式会社とは、株式の持ち主=株主(会社のオーナー)という会社ですから、株主の意向が反映される場=株主総会、を設置することは必要です。しかし、新会社法では、取締役の人数は、社長=(代表取締役)1人でも良く、取締役会を設置しないケースも可能となりました。つまり、名前ばかりの取締役は、不要です。また、取締役の任期も最長10年と、従来よりも長期に規定でき、形式的な役員の再任決議を減らすことができます。
他には、監査役の設置が必須でなくなり、決算書作成の責任者である会計参与の設置が認められるようになりました。
名ばかりの取締役は不要。
取締役任期も定款上で実態に即して意味のない再任決議を減らすには、定款をうまく活用しよう。
また、過去につくった、定款が、会社の実態とあっていない場合や、旧法律上で設立した場合は、見直して、再登記したほうが、長い目で見た場合は、コンプライアンスに合致し、コスト削減につながることも。
なぜ、会社法は改正されたのでしょうか?
旧制度では、“会社所有者(株主)と経営者が分離されている”という株式会社の理想形態を想定して法律が規定されていました。しかし、日本の大多数の株式会社は、中小企業で、“会社所有者(株主)=経営者”というのが実態です。
従来の株式会社は中小零細企業から、東京証券取引所に上場しているような大企業まですべての会社が同じ法律で法定されていましたが、これが中小企業の実態に即しておらず、経営者からみると使いづらく、結果的に定款を形骸化させていたのです。
新会社法では、さまざまな会社の個性、特に、中小企業に合わせた「会社のカタチ」をそれぞれの定款内で決めることができるようになりました。
新会社法上の基本的枠組みと注目点を教えてください。
新会社法では、まず株式会社を新しく以下の2つにグループ分けすることになりました。
非公開会社の中には、家族で細々と経営している会社や、これからどんどん成長していくベンチャー企業、自分の代で会社を終わらせようとしている会社など、さまざまなタイプの会社があります。そういったさまざまな会社が自由に実態に合った会社作りをできるようになったと言えるでしょう。下で詳しくお話しますが、特に注目すべき点は以下の3つです。
自由度が増した分、定款上できちんと記載をしていなかったために付込まれ、いざというときに、大切な会社の株式が売買されて、不本意に経営権を手放すというようなトラブルが起こるという事態も起こりえます。また、先に述べたとおり、きちんと記載することで、意味のない、取締役や取締役会を設置しないことも可能になりました。
旧制度から比べて、会社の機関設計など大幅に自由度が増えた。旧制度で定款を設定、登記している場合は、見直しが必要。また会社成長やルールの変更にあわせて、定款の記載内容を見直そう。
株式会社の定款【絶対的記載事項】
絶対的記載事項とは、定款に必ず記載しなければならない事項をいい、その記載がなければ、
定款全体が無効となってしまいますので注意が必要です。
目的 |
会社の事業目的を記載 |
---|---|
商号 |
(1)商号とは、会社の名称で、商号の選定は原則として自由。 |
本店の所在地 |
本店の所在地…最小行政区画である市区町村(政令指定都市にあっては区)までを記載しなければなりません。 |
設立に際して出資される財産の価額又は |
株数ではなく、出資財産額又は最低額を記載します。出資財産額の下限制限はない。株数の記載が原始定款記載事項ではないため、株式の引き受けの執権を抑制する必要はありません。 |
発起人の氏名又は |
発起人の氏名又は名称、住所を記載します。印鑑証明書の氏名、住所と一言一句違わないように記載。 |
発行可能株式総数 |
発行可能株式総数については、定款認証時に定めておく必要はありませんが、定款に定めない場合は、会社の成立のときまでに、 |
変態的記載事項 |
(1)現物出資(金銭以外の財産である出資のこと) |
---|---|
株式の譲渡制限に |
全ての株式又は一部の種類の株式について、その譲渡に会社の承認を必要とする形で株式の譲渡を制限する旨を定款で定めることができます。 |
取得請求権株式に |
株主がその株式について、会社に取得(買取り)を請求できる株式に関する定め |
取得条項付株式に |
一定の事由が生じた場合に、株主でなく会社側が取得件を有する株式に関する定め |
株券発行の定め |
株券の不発行が原則であり、株券を発行する会社は定款で定める必要があります。 |
基準日 |
基準日を定めたときは2週間前までに当該基準日及び株主が行使することができる権利の内容を公告しなければなりませんが、定款に基準日と当該事項の定めがあれば、公告は不要となります。 |
取締役会、会計参与、監査役、監査役会、 |
これらの機関は、定款に定めれば置くことができます。 |
取締役等の任期の |
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時までですが、定款で短縮することができます(会計参与についても同じ)。 |
取締役等の任期の |
公開会社でない株式会社の取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結のときまでに伸長が可能です(会計参与についても同じ)。 |
監査役の任期の伸長 |
公開会社でない株式会社の監査役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結のときまでに伸長が可能です。 |
取締役会の招集 |
取締役会の招集通知は、1週間前に発しなければなりませんが、定款で短縮が可能です。 |
取締役会の決議の |
取締役が決議の目的である事項について提案した場合において、取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意を意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款に定めることができます。 |
役員等の責任の軽減に関する定め |
会社法423条1項に基づく役員等の会社に対する責任(同法428条1項の場合を除く)を株主総会決議により軽減するほか、取締役会決議により責任の軽減をすることができる旨を定めることができます。 |
剰余金配当の定め |
取締役会設置会社は、事業年度の途中において、1回に限り取締役会の決議により、配当財産が金銭であるものに限り剰余金の配当(中間配当)をすることができる旨を定款に定めることができます。 |
公告の方法 |
公告の方法については、次のいずれかを選択できます。 |
「株式会社」の根本である「株式」に種類があるのですか?種類株式について教えてください。
特に資本政策を考える会社では大切な点です。権利の内容が異なる株式「種類株式」を中小企業でも自由に発行できるようになりました。発行できる種類株式は、主に9種類。例えば多くの配当をもらえたり、株主総会において否決権や人事権を持てたり、会社がその株式を強制的に買い戻せる等の特殊な機能やを持った株式です。少々難しいですが、以下の種類株式を駆使することによって、多様な資本政策をつくることが可能となりました。
種類株式を発行する会社は、登記事項として公開されます。内容は、定款に記載しておかなくてはなりません。
「他に定款に記載しておきたい項目はありますか?
まず、余剰金の配当や残余財産の分配、議決権などについて、株主の権利に差をつける規定ができます。これらは種類株式と似ていますが、種類株式では、登記情報として公開されます。対外的に公開したくない場合に、定款上で規定しておくことが可能です。
次に、譲渡制限のついた株式について持ち主に株式の売り渡しを求めることができます。たとえば、相続などで望ましくない相手に株式が渡ってしまった場合などに、使えます。
次に、取締役、社外取締役等の賠償責任を軽くする条項を盛り込むことが可能です。
最後に、株主総会ではなく、取締役会で剰余金の配当が議決できます。一般的に株主総会
は、人数が多かったり、開催日が決まっていたりしますので、より柔軟に議決することが可能です。
以上をうまく使うと、会社を守る施策を作ることができますね。
さまざまな種類の株式を発行できたり、株式の権利や議決ルールを決めることができるということはわかりましたが、難しそうなことばかりですね・・・
確かに専門用語や、通常あまり気にしていないことを検討し、決めなければなりませんね。
しかし、法律で定められている内容に限らず、自由な発想でさまざまな条項を入れることもできますよ。ビジョンを盛り込んでオーナー経営者の意志を明確にすることも有効な定款の活用法だと思います。例えば経営者の会社に対する思いをつづったり、商号や年表、経営方針など、今で言うと企業のホームページに載っているような内容を定款に記載することで定款にメッセージを込めることが出来ます。また、定款で相続人を定めておけば、相続の際に争うこともなくなるかもしれません。
つまり会社法施行によって、定款自治が拡大したということは、自分の会社が今どのような状況に置かれているのかを分析し、今後どのような方向に進むべきかを常に考えていく中で、会社運営のツールとして定款を定期的に見直していく作業が必要になるということです。定款を作る際には、経営者の思い込めたメッセージを埋め込むとともに、会社がどのような会社になりたいかに
を、事業計画や資金計画を検討し、必要な資本金額を決め、運営上の意思決定ルールを考えて組織設計をし、さらに法律で規定している様々な規定を有効的に活用していくことが重要です。定款をつくるというプロセスは、単なる形式的な作業ではなく、法律的な側面を有効活用する経営戦略そのものだと思います。
専門的な箇所や悩んだときには、司法書士や弁護士、公認会計士などを活用し様々な角度から会社のカタチを考えて、思いのこもった定款を作りこんでいくことが、会社の拠り所となり眠らない生きた「憲法」を作れると思います。
またいろいろな団体や機関が、起業・創業をサポートするセミナーや相談会を実施していますので、どんな事業をどのような会社で経営していきたいのか、周囲に伝えることで明確にしてゆけばよいでしょう。